異文化の理解が海外ビジネス成功の秘訣

先日ホフステード・インサイツのセミナーに参加しました。異文化コミュニケーションの観点から大変興味深かったので、ご紹介します。

まず、ホフステード・インサイツとは、オランダ人学者のヘールト・ホフステード博士(1928年生まれ)の異文化間協力に関する研究を普及されるための組織です。

ウェブサイトはこちら: 

Hofstede Insights Japan「文化とマネジメント」公式ページ

ホフステード博士の研究では、各国国民の考え方の傾向が細かく分析されていて、異文化間のコミュニケーション、さらには多国籍企業の異文化間協力に欠かせない理解がふんだんに含まれています。 

それでは、セミナーの概要をご紹介します。勤務先の方がまとめを作られていたので、そこから抜粋・編集してご紹介します:

 

グローバル化の進展に伴い、海外の方々とビジネスをする機会がますます増えています。その際、価値観や仕事へのアプローチの違いに、戸惑った経験をお持ちではないでしょうか。

セミナーでは、ホフステード博士が各国の文化について研究した「ホフステードの6次元モデル」をもとに、6つの次元での国ごとの違いが紹介されました。違いを知れば有効な接し方がわかり、違いを活かして新しいより大きな価値を一緒に作っていくことが可能になります。

国民文化の違いを6つの次元で数値化

文化の違いが、国境を越えたビジネスを難しいものにしています。国際的なビジネスのうち7割以上が失敗しているという調査もあるそうです。

そこで、「ホフステードの6次元モデル」が文化の違いを理解する上で重要となります。ホフステード博士は、『ウォール・ストリート・ジャーナル』において「世界で最も影響力のある経営学者20名」に選ばれたこともある著名な学者で、「文化と経営の父」とも呼ばれています。世界各国で文化的な価値観や仕事へのアプローチについての大規模な調査を行い、6つの次元で国ごとの国民文化の違いを数値化しました。

6つの次元とは、
1.権力格差      Power Distance(PDI)
2.集団主義個人主義 Individualism(IDV)
3.女性性/男性性   Masculinity(MAS)
4.不確実性の回避   Uncertainty Avoidance(UAI)
5.短期志向/長期志向 Long/Short term(LTO)
6.人生の楽しみ方   Indulgence(IVR)
です。

それぞれの次元の数値が高いか低いかによって、各国の国民文化の特徴をつかむことができます。特徴をつかむことで、自分たちとは文化が異なる人たちとの適切な接し方が可能になるのです。

権力格差が大きい国と小さい国では、理想の上司像がまったく異なる

では、「権力格差」(PDI)とは何なのでしょうか。
まず、講師はドイツのメルケル首相とフランスのマクロン大統領の執務室の写真を参加者に示します。メルケル首相の執務室は機能的でシンプル。一方マクロン大統領の執務室は、仰々しい装飾が施されています。

実はここにドイツとフランスの権力格差の違いが象徴的に表れていると講師は言います。ホフステード博士の研究では、ドイツは権力格差が小さい国、フランスは大きい国とされているのです。
※この説明は間違っているのではないかと個人的には思っています。フランスの大統領執務室はパリのエリゼ宮殿にあり、1718年に伯爵のために建設された文化遺産です。このため、ヴェルサイユ宮殿のような華美な装飾が施されており、室内を改築することは困難です。一方、ドイツの首都は戦後ポンに置かれていましたが、東西ドイツ統合の時にベルリンに遷都しました。この後新しい首相官邸が建設され、2001年に完成しており、当然モダンな執務室となっています。
ただし、この様な執務室を許容している点は国民文化が表れていると言えるのかもしません。

権力格差が小さい文化では、単に年長者だからといって敬われることは少なく、一人ひとりにさほど大きな違いはないという価値観が濃密です。こうした文化においては、理想とされる上司はコーチングでいうコーチのような存在。組織を構成する以上は立場上リーダーが必要ですが、必ずしもリーダーだからといって偉いというわけではありません。

一方、権力格差が大きい文化では、目上の人は敬われるべき存在です。厳しくて怖いかもしれないが、部下に愛情を持って接してくれる親のような上司が理想とされます。この文化においては、階層は非常に重要です。トップが強い権力を持っており、さまざまな決断や指示は、上から下へとトップダウンで下されます。

このため、権力格差が小さい国と大きい国とでは、現地にリーダーとして赴いた際には、求められるマネジメント能力がまったく異なります。

ドイツやフランスのほかにも、権力格差が小さい国としてアメリカ、大きい国として中国やサウジアラビアがあげられるそうです。

ちなみに最も大きな国はマレーシアで、スコアは何と100。

これに対し日本はちょうど真ん中あたり。確かに日本は、上下関係を大切にする一方で、稟議に象徴されるように、組織の下の人間が上の人間に提案をして了承されるといったボトムアップ型の意志決定も多くの場面で見られます。

日本は集団主義の国民文化ではない?

次の「集団主義個人主義」(IDV)とは、自分が所属している組織や親族などの集団の一員として行動することを重視する文化か、それとも個人単位で社会と関わっており、個人として行動することを重視する文化であるかを数値化したものです。
集団主義の文化では、集団としての調和が重んじられるため、個人間の対立を避けようとする傾向があります。

ある人が何か大きなミスを犯してしまったときには、その人は「みんなに恥をかかせてしまった」というように、自分が所属している集団に対して責任を感じます。またあるポストに新たに人材を登用する際には、それまでの人間関係や信頼関係が重視されます。集団主義の傾向が強い国としては、中国や韓国、インドネシアなどが挙げられます。

一方個人主義の文化では、個人が自分の意見を主張して他者と対立するのは、悪いこととはみなされません。

また大きなミスを犯してしまったときには、所属集団に対して責任を感じる以上に、自分自身の自尊心が大きく低下します。そして人材登用においては、それまでの人間関係よりも、スキルや能力、実績が重視されます。

個人主義の傾向が強い国としては、アメリカやイギリス、オーストラリア、カナダが挙げられます。

では日本はどうかというと、スコア46で、やはり真ん中あたりというものでした。
「日本の場合、組織に忠誠を尽くす人が多い一方で、プライベートではどんなに長く付き合っても線があるように感じるという声をよく聞きます。

集団主義個人主義の両方の要素を持っている国民文化といえそうです」と講師は語ります。

日本は「男性性」が突出して高い国民文化

一方、日本の数値で突出しているのが「男性性/女性性」(MAS)です。

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日本の ホフステード 6次元数値

男性性(上記のMasculinity)とは、競争社会の中で勝利して、社会的地位や成功を得たり、業績を上げたりすることを重視する文化のこと。

女性性とは、生活の質を上げることや、弱者への配慮を重視する文化のことです。男性性が高い国としてはアメリカ、女性性が高い国としては北欧の国々が挙げられます。
そんな中で日本は、他国と比較しても断トツに男性性が高いという数値が出ているのです。

「ただし日本の場合、アメリカなどと比べて個人主義は高くないため、他者との競争に勝つというよりは、自分自身に打ち克つという意識のほうが強くなります。その端的な例が『道を究める』という発想です。少々評価されただけでは満足せず、ある1つのものごとを極めるために、終わりなき探究を続けるという日本人の姿は、極めて男性性が高いと言えます」と講師はおっしゃっています。

そして4つ目の「不確実性の回避」(UAI)とは、未知の領域に挑戦する際、失敗を恐れずにとにかくやってみることを重視する文化か、それとも入念に準備や調整を重ね、失敗のリスクをできる限り減らしたうえで取り組むことを重視する文化であるのかを数値化したものです。スコアが高いほど、不確実性の回避の傾向が高い文化になります。不確実性の回避が高い国としては、フランスやドイツ、韓国、そして日本などが挙げられます。低い国としてはアメリカやイギリス、中国などが挙げられます。

日本のような不確実性回避度合の高い国の企業が、低い国の企業とビジネスを行う際、相手はこちら側の意志決定や行動の遅さにイライラすることになりかねません。一方こちら側は、相手の意思決定や行動の速さにおいて行かれる感覚を持ちます。お互いの国民文化の違いによって生まれる各々が正しいと考えている行動が、結果としてをお互いに不信感を増長することにもなりかねないことを理解しながら、コミュニケーションを取っていくかが大切になります。

このセミナーでは、異文化理解の大切さに気づかされると同時に、自分たちが普段暮らしている日本の文化の特殊性についても、考えさせられるものとなりました。

 

最後に、各国の数値はホフステードの米国サイトで確認できます:

https://www.hofstede-insights.com/product/compare-countries/

 

 参考:

ヘールト・ホフステード文化の多様性 | 世界のビジネスプロフェッショナル 思想家編 | ダイヤモンド・オンライン